はじめまして、ゆかたんです。
婦人科病棟勤務の経験を活かして、より専門的なトピックを解説していきます。
今回は、人工妊娠中絶のアレコレについてです。
目次
人工妊娠中絶って、なに?
「妊娠しちゃった。でも、産んで育てられないから堕ろそうかな…」
こういう言葉、ドラマやリアルでも聞いたことがありますよね。
人工妊娠中絶のイメージについて考えると、赤ちゃんを殺すというイメージをもつ人もいるかもしれません。
しかし、私は、決して悪いことばかりではないと思います。
そもそも中絶って何でしょう?
それは、妊娠をやめるということになります。
では、人工妊娠中絶とは何でしょうか?
それは、人工的に妊娠をやめるということ。
人工妊娠中絶は、誰でも・いつでも・どんな理由でも出来るというわけではありません。
このあたり、詳しく説明していきますね。
人工妊娠中絶は、いつまで可能なの?
妊娠し、人工妊娠中絶に医師・本人の承諾を得たらできます。
期間で言うと妊娠21週6日まで可能です。
なぜ、妊娠22週以降に人工妊娠中絶ができないかというと、その理由は赤ちゃんがお母さんのおなかから出てきても生きていられるから。
もちろん、生きている命を殺すことはできません。
そのため、生まれてきても生き伸びる確率が極めて低い状態、つまり妊娠21週6日までしか人工妊娠中絶は出来ないのです。
人工妊娠中絶には、承諾って必要なの?
妊娠したら基本的に産むことが大前提となります。
ただ、レイプされて妊娠した、妊娠したけど経済的に育てられないなど、出産を望まない場合もありますよね。
そこで、人工妊娠中絶するにはこんな条件があります。
- 身体的・経済的理由により母体の健康を害する場合
- 抵抗もしくは拒絶することができない間に姦淫され妊娠した場合
(姦淫:道徳に背いた性行為。つまり同意がない性行為のこと)
私が人工妊娠中絶でみていた患者さんは、高校生など学生で経済的に自立していないため人工妊娠中絶をする、お母さんにもともと持病があり身体的に妊娠・出産することに耐えられないなどの理由で人工妊娠中絶する方たちでした。
①もしくは②の条件に当てはまり、医師と本人と配偶者の同意・承諾があり初めて人工妊娠中絶ができます。
婚姻関係のないカップル(成人している場合)も相手の承諾があればできます。ただし、未成年は保護者の同意が必要になるので必ず親には相談しましょう。また、レイプなどで相手がわからない場合は本人の同意のみでできます。
人工妊娠中絶って、どの病院でもできるの?
人工妊娠中絶は、産婦人科の医者がいたらどこでもできるわけではありません。
母体保護指定医という資格を取った医師がいる場所でしかできません。
そもそも、母子保護指定医とは?
これは、母子保護指定医という資格を持った医師のことです。
この資格を持っていないと人工妊娠中絶は出来ません。
どんなに偉くて有名な先生でも、この資格がないと中絶できないのです。
ちなみに、この資格がない医師が人工妊娠中絶を行った場合、母体保護法という法律(堕胎罪)に反するため罰せられます。
母体保護指定医がいるかを確認するには、お近くの産婦人科のクリニックまたは病院を探してください。
受診するだけならどこでも大丈夫です。
もし、そこで母体保護指定医がいない場合は、紹介状を書いてくれます。
それを持参し、紹介してくれた医療機関へ行きましょう。
実際、中絶の費用はどのくらいかかるの?
人工妊娠中絶は、保険適用外なので全額自己負担になります。
そして、実は、妊娠11週6日までと妊娠12週以降でも値段が違ってきます。
妊娠11週6日までの負担額
様々な病院を見ると20万円かからない程度だと思います。
こちらは、入院せず外来で処置することが多いです。
しかし、追加で処置を行ったり検査をしたり、また手術後の外来受診なども含めると20万円以上は用意していたほうが安心かもしれません。
また病院によっては入院をして行うこともあります。
入院費用も含めるとかなりの金額になってきますよね。
妊娠12週以降の負担額
この場合は入院して行います。
人工妊娠中絶費用に加えて、入院費用がかかってきます。
しかし!
妊娠12週以降の人工妊娠中絶の場合は出産育児一時金という補助が受けられます。
妊娠12週以降、赤ちゃんが生きていても亡くなっていても、法律上「出産」扱いとなるからです。
そのため、お母さんの心理的負担を考慮するといたたまれませんが、火葬や死産届などの手続きが必要になります。
現在、日本では40万4000円分が支払われます。
意外と負担は少ないかも?と思われますが、現在、日本では出産にかかる費用は全額自己負担になります。
国民皆保険の適応外なんです。
出産育児一時金を使用しない場合、平均50万円かからないくらいだと思ってもらってOKです。
しかし、薬や火葬費用、外来受診なども含めると50万円以上は準備しておいたほうが確実かなと思います。
出産育児一時金が適応になった場合は、40万4000円が返ってくるため負担は20万円かからない程度。
妊娠11週6日までの人工妊娠中絶費用とほぼ同じくらいになります。
ただ、出産育児一時金をもらうには、中絶に至る理由を書いたり病院からの診断書などが必要になったりします。
人によっては知られたくないという理由で、申請したくないという人もいるはずです。
この出産育児一時金、任意になるので必ずもらったほうがいいよ!とは言えません。
しかし、実際に一括で払うことを考えると金額はかなり高額。
あって損はないものだと思います。
手続きの仕方がわからない場合は、病院またはクリニックで聞けば教えてくれます。
いないとは思いますが、スタッフから嫌な顔をされたり、不快になるようなことを言われたなどあるかもしれません。
でも、これは自分の権利でだれでももらえるものです。
嫌な対応をしたスタッフのほうがありえません。
気にしないようにしてくださいね。
ここから補足です。
以前、金額が安いからという理由で母体保護指定医で中絶を行わなかったというケースがありました。
しかし、これは違法です。
中絶を行った場合、違法になるので警察に通報する必要がありますが、それをわかったうえで受けてしまっては元も子もありません。また、その処置後に身体的トラブルがあり、別の病院へ運ばれ処置が必要になったこともありました。
安いからという理由で、お金も時間も、そして大事な自分の身体をないがしろにしないでください。
困るのは、あなた自身です。
だから、中絶するならきちんと母体保護指定医のもとで受けてください。
何かあってからでは、対応が非常に難しいです。
人工妊娠中絶を考えるときに、大事にしてほしいこと
人工妊娠中絶で大切なのは、早めの判断がいいということ。
もちろんすぐ決めろということではありません。
ただ、自分の中で抱えてしまい、人工妊娠中絶をしようと思った時にはもう遅く、妊娠22週以降になっていた場合にはいかなる理由があっても人工妊娠中絶は出来ません。
産んで育てるしかないんです。
また、妊娠12週を境に、行う処置、かかる費用、必要な時間などもそれぞれ違います。
これらを参考に決めてもらえればいいなと思います。
私の思いですが、人工妊娠中絶は「赤ちゃんを殺す」ということではありません。
お母さんの身体と心を守る大切な処置なのです。
世間的には悪いイメージを持たれがちですが、自分の身体のことなのでよく考えてみてほしい。
無理に産んでも育てられず、虐待や育児放棄が起こってからでは、取り返しがつきません。
数百円のコンドームや、毎月数千円の低用量ピルに比べると、人工妊娠中絶にかかる費用がどれだけ大きいか。
そして、身体的にも精神的にもどれだけダメージを抱えるか。
パートナーを、そして自分を大切にするためにも、よく考えてみてくださいね。